服姿の水兵

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わたしは力なく腕を落とした





「どこでそんなものうつされてきたの」
「鳥たちを訪ねて、何か見なかったか訊いてまわった。ハゲワシの巣の中であいつらを拾ったのだと思う」
「よくハゲワシと友だちになれたものね」
「ハゲワシはそんなに悪いやつじゃないよ、ポル。あいつらは必要上あんな姿をしているんだし、ひななんか可愛いもんだ。雌ハゲワシがここから南に二十リーグ行ったところから、死んだ馬の肉を運んできた。そのことを聞いたあと、わしはその場所に行ってみたら、マーゴの軍隊が行軍しているのに出くわした」
「何人くらいです」かたくなに背中を向けたまま、ヴァラナ将軍がきいた。
「千人くらいかな」ベルディンは肩をすくめた。「やつらは先を急いでおったから、明朝あたり、出会うんじゃないかな」
「千人くらいのマーゴ人ならたいしたことはない」ローダー王は眉をひそめた。「およそわれわれの敵ではない。それにしても、何故、千人ぽっちの兵を投入したのだろう。タウル?ウルガスはいったい何を考えておるのだ」かれはヘターを見た。「すまんが、コロダリンやボー?マンドール男爵のところに行って、ここに来てくれるように伝えて欲しい。軍議を開かなければならない」
 ヘターはうなずくと、隊の先頭にいるミンブレイト騎士団の方に馬を走らせた。
「マーゴの隊の中にグロリムはいた?」ポルガラは不潔で背にこぶのある男にたずねた。
「いいや、いたとしてもうまく隠しただろう。それ以上は観察できなかった。わしの正体がばれても困るんでね」
 ヴァラナ将軍は、突然、まわりの丘の観察を中止すると、馬首をめぐらして一行に加わった。
「そのマーゴ人の隊は、タウル?ウルガスが申しわけのためによこしたのだと思われます。たぶん、ゲゼール王の歓心を買うためでしょう。マロリー軍がいまだにタール?ゼリクを離れようとしないので、われわれが破壊しているタール人の村や町の防衛を支援することで少しでも優位にたとうという魂胆だと思われます」
「それならわかるな、どうだね、ローダー」アンヘグが同意を求めた。
「そうかもしれん」ローダーは疑わしげに言った。「だが、タウル?ウルガスがそのような理性ある人物のような考え方をするとは思えない」
 マンドラレンとボー?エボール男爵を両側に従え、ひづめの音を轟かせながらコロダリン王がやってきた。かれらの鎧兜は陽光に輝いていたが、鋼鉄に包まれている姿は見ているだけで暑くなりそうだった。
「よくそんな格好をしてられるな」ローダー王が言った。
「習慣ですから、陛下」コロダリンは答えた。「鎧兜は決して快適とはいえないときもありますが、信頼はできます」
 ヴァラナ将軍が簡単に情況を説明した。
 マンドラレンは肩をすくめた。「あまり時間がありませんな。数十人の部下を連れて、その南の脅威を粉砕してまいりましょう」
 バラクはアンヘグ王を見た。「わかっただろう? こういうやつなんだ。おかげでクトル?マーゴスにいたときは気がきじゃなかったぞ」
 馬に乗ったフルラク王も、軍議に加わり、ためらいがちに咳ばらいした。「意見を述べさせてもらえるかな」
「センダリア王の現実的なお知恵をぜひ拝借したいと思っていたところです」コロダリンは大仰に答えた。
「マーゴの隊はそれほど脅威のあるものではないだろう?」フルラクは同意を求めるように言った。
「そうです、陛下」ヴァラナが答えた。「今のところわかっているのは、かれらが近くにいるということだけです。たぶん、タール人の要請を無視していないという言いわけとして送られてきた部隊でしょう。われわれに近づいてきているのは、まったくの偶然と思われます」
「だが船を運んでいることを気づかれるほど接近されたくはない」アンヘグは断固として言った。
「そうするように、われわれで何とかするさ」ローダーが言った。
「われわれのどの部隊でも、あの程度の人数なら簡単に撃破できるだろう。しかし、士気という面においては、全員で一斉に攻撃するほうがよいのではないだろうか」と、フルラクは言った。
「その意見は支持しかねるな、フルラク」とアンヘグ。
「マンドラレン卿の騎士団で、この千人あまりのマーゴ軍を全滅させるよりも、各部隊から兵を集めて特別軍を編成したほうが効果的ではないかと言っておるのだ。実戦の経験を積むことができるし、各隊も誇りを持つことができる。将来、困難な情況に遭遇したとき、今回の勝利で得られる自信は、強い支えになるだろう」
「フルラク、きみには本当によく驚かされる」と、ローダー。「問題はきみの外見が知性を裏切っていることだ」
 フルラク王の提案により、接近してくるマーゴ軍を攻撃するために南に向かう特別部隊が編成された。人選はこれまたフルラク王の提案によってくじで決められた。「かれらだけが優秀な兵士たちというわけではないことがこれで全員にもわかってもらえる」と、王はつけ加えた。
 残りの本隊がマードゥ川に向かっている間、バラク、ヘター、マンドラレンの指揮下にある特別部隊が敵を攻撃するために南に向かった。
「かれらは大丈夫かしら」不毛の谷を行く分隊がだんだん小さくなり南の山々の向こうに消えるのを見ながら、セ?ネドラは気づかわしげな顔でポルガラにたずねた。
「大丈夫よ」ポルガラは自信ありげに言った。
 しかしその夜、王女は眠ることができなかった。彼女の兵が初めて本当の戦いに行くのかと思うと、悪いことばかり思い浮かび、一晩中まんじりともできなかった。
 特別部隊が戻ってきたのは翌日の午前中なかばだった。包帯を巻いている者もちらほらおり、乗り手のいない馬も十数頭あったが、どの顔も勝利に輝いていた。
「なかなかの戦いだった」バラクは報告した。この大男は顔中でニヤニヤ笑っていた。「日没前にやつらをとらえた。連中は何が起こったかすらわからなかっただろう」
 観戦という名目で従軍しているヴァラナ将軍は、居並ぶ王たちを前に、バラクのよりもさらに詳細な報告をした。「全般的な戦略は計画どおりに進みました。まず、アストゥリアの弓射兵が嵐のように矢を放ち、その間に、歩兵隊が丘の長い斜面の頂きをめざして進軍しました。次に、ドラスニアの槍兵、センダリア兵及びアレンディアの農奴部隊をそれぞれ均等に攻撃の前面に配置して、さらに背後からは弓射兵が矢を射かけて敵軍を悩ましたのです。われわれの思惑どおり、マーゴ人は攻撃をしかけてきました。やつらが反撃に出るとすぐに、チェレク人とリヴァ人が、後部から一気にくり出し、アルガーの諸氏族が側面から攻撃に加わりました。相手の攻撃が鈍ったところで、ミンブレイト騎士団が一気に攻めこんだのです」
「それは凄かったんです!」レルドリンは目を輝かしながら叫んだ。この若いアストゥリア人は上腕部に包帯を巻いていたが、大きな身振り手振りで話しているうちに、すっかり痛みを忘れてしまったようだった。「マーゴ人がすっかり混乱したところをついて、雷の轟きのような音がしたかと思うと、丘のふもとをぐるっとまわるようにしてミンブレイトの騎士たちが、槍を掲げ、槍旗をはためかせあらわれたのです。かれらはマーゴ人に鋼の波のように襲いかかり、馬たちのひづめの音で大地を震わせました。次の瞬間いっせいに騎士たちが槍を低く構えました。そして一気にマーゴ人を突きさしたまま、速度を落とすことなく駆け抜けていきました。まるでさえぎるものひとつないように駆け抜けていったのです! 連中がマーゴ軍を完壁に粉砕したところで、われわれ全軍でマーゴ軍にとどめをさしました。まさに偉大なる勝利です」
「あいつはマンドラレンと同じくらいどうしようもないやつだな」レルドリンのようすをみていたバラクがヘターに言った。
「たぶん、かれらの血のなせるわざでしょう」と、ヘターはすました口調で答えた。
「逃げた者はいるのかね」アンヘグがきいた。
 バラクはいとこに残虐そうな笑みを投げかけた。「日が暮れてから、逃げ出そうと這いずりまわっている物音がしたな。レルグと部下のウルゴ人が、そいつらを片づけに出かけたよ。心配することはない。誰もタウル?ウルガスに知らせに戻ることはできはしまいよ」
「だが、やつは報告を待っとるのではなかったかな」アンヘグがニヤリとした。
「やつが辛抱人であればいいんだがね」バラクは答えた。「さぞかし長いこと待たされるだろうよ」
 アリアナは、傷の手当てをしながら、沈痛なおももちでレルドリンの無分別な行動をしかりつけた。彼女の諌めは、単なる叱責よりも効果があった。彼女の口調はしだいに熱を帯び、その長々しくいんぎんな言葉に、若者は涙を浮かべるほどだった。軽いかすり傷でも、アリアナには、不如意の結果としか思えなかったのだ。セ?ネドラは若者の下手な言いわけをアリアナが個人的中傷のようにすりかえていく手ぎわを見つめ、将来のためにしっかりと頭にしまいこんでおくことにした。ガリオンはレルドリンよりも賢いかもしれないが、この戦術はかれのときにも使えると、セ?ネドラは思っていた。
 一方、レルグとタイバは何の言葉も交わさなかった。かつてはラク?クトルの地下の奴隷の檻にいたこともあるこの美しいマラグ人女性は、奴隷よりもさらに悄然とした面持ちで部屋に入ってくると、狂信的なウルゴ人の傍らにかけ寄った。彼女は低い叫び声をもらし、われ知らずの相手にむかって両手をさし出していた。レルグは一瞬ひるんだが、おなじみの「さわらないでくれ」というせりふはなぜか口をついて出てこなかった。女の抱擁に狂信者の目は大きく見開かれていた。とたんにかれの戒律を思い出したタイバは。しかし、大きく目を見開いた青白い顔をみつめるスミレ色の瞳は、燃えるように輝いていた。ゆっくりと、まるで火に手をかざすように、レルグはタイバの手をとった。彼女の顔は一瞬当惑したような表情を浮かべ、すぐにゆっくりと赤らんできた。手に手をとって二人は歩き始めた。タイバは控え目にうつむきかげんに歩いていたが、ふくよかで官能的な唇の端には勝ち誇ったような笑みがかすかに浮かんでいた。
 マーゴ軍との戦いに勝利したことで、大いに士気は高まった。要塞を出発した最初の数日、かれらを悩ましていた暑さと埃も、もはや軍団の士気をおとろえさせはしなかった。そして東に進むにつれ、国ごとに分かれていた隊の間に仲間意識が強まってきた。
 マードゥ川の源流に到着したのは、それから四日後で、船を浮かべるのに適した流れまで運んでいくのに、もう一日かかった。ヘターとアルガーの諸氏族の巡視隊が、遠くまで偵察にでかけ、十リーグほど先の早瀬を越えてしまえば、あとは穏やかな流れになるむねを報告した。
「では、輸送を早めることができるな」アンヘグ王は言った。「さっそく船を着水させよう。ずいぶん時間を無駄にしたからな」
 川岸はかなり高い土手になっていたが、兵たちがシャベルやつるはしで勢いよく崩し始めたので、すぐに川まで平板な斜面になった。船は一隻また一隻と斜面を下って川に運ばれていった。
「マストをたてるのに時間がかかるな」アンヘグが言った。
「あとでいいじゃないか」とローダー。



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