北のほたるや

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月光池伝説



月光池伝説


北海道三笠市幌内 月光町 月光池






ユクは岸部にうずくまり、祈りを捧げていた。


風のない水面には大きな満月が映り込み、青白く輝いていた。


父と母は、サモの争いに巻き込まれ、多くの仲間たちと共にアフンルパルに葬られてしまった。


妹のクンネチュプははぐれてしまい、どこにいるのかわからない。


ユクは、喪失感に押し潰されそうになりながらも、祈りを捧げ続けていた。


ふと、水面が微かに揺らぎ、映り込む月が何かを囁いたような気がした。


しかし、ユクは何も気付かず、ただただひたすら、目を閉じて祈り続けた。


雨が降り、その雨が雪へと変わり、ふたたび雨となり、やがて強い陽射しが照りつけた。


はたしてどれほど繰り返されたのかすらわからないほど多くの時間と季節が流れた。


いつしかユクは、清らかな水面に飲み込まれ、葬られたはずの父や母、多くの仲間たちに囲まれていた。


祈り続けるユクの願いを知るものは誰もいないが、今もクンネチュプの子孫たちが、この水面から天を仰ぐユクたちの姿を見守り続けている。




#三笠市 #町興し #伝説 #月光池 #水没林 #エゾシカ #夜景 #映り込み #月夜 #角 #湖




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毛の再生、マウスで成功=脱毛症の自己移植治療に応用へ―東京理科大

時事通信 2月27日(日)2時34分配信
 大人のマウスのひげを作る「毛包(もうほう)」にある幹細胞を採取して培養、増殖させ、毛がない別のマウスの背中に移植して毛を再生させることに、東京理科大の辻孝教授らが世界で初めて成功した。3月1日から都内で開かれる日本再生医療学会で概要を明らかにし、新技術の詳細は論文にまとめて国際的な科学誌に発表する。
 この技術をヒトの脱毛症患者に応用できれば、残った毛髪組織を増やして脱毛部分に自己(自家)移植し、頭髪を再生して長期間維持できると期待される。研究チームは、患者から後頭部の毛髪組織の提供を受けており、辻教授は「早ければ3年後の臨床試験開始を目指したい」と話している。
 マウスのひげは体毛より太く、直径が0.05ミリ程度でヒトの毛髪に近い。再生した毛を電子顕微鏡で分析すると、自然の毛と同様に中心に毛髄、周囲に毛皮質があった。さらに自然の毛は生え替わることを繰り返すが、移植後の毛包も3カ月間、21日周期で生え替わりが続いた。

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イタチの抜けがら


 今まで、どれ程の育毛薬が問発され、その度に話題を呼び、消えていったことだろうか。

 禿。それは、水遠の男の悩み。
 勿論、同じ悩みを持った女性も少なくはないはずだ。そして、私もそれに悩み、悲しみ、苦しんできたことは言うまでもない。

 私は、どちらかというと、世間の流行に乗りやすい万で、新しい薬が出たといっては次々と試し、更には、ブラシで叩いたり、スチームで蒸したりもした。しかし、私の禿頭には、か細い産毛が生える程度であり、かえってそれは醜くさえ見えるものだった。

 しかし、ある時、私は閃いた。
 「今まで買い集めた育毛削を、全部混ぜたらどうだろう」
 早速やってみることにした。
 ポール箱に詰めて押し入れに入れてあった、数十種類の薬を引っ張り出し、バケツの中にあけ、ハンドミキサーを使ってよく混ぜた。
 かくして、薬は出来た。
 しかし、いきなり人体実験を行うというのはとても危険に感じたので、ブームにのって買ってしまった 「フェレット」という名のイタチの毛を、少しだけ削って、そこに薬を塗ってみた。

 生えた。黒々とした毛が生えてきた。

 うちのイタチは「アルピノ」といって、全身の毛が純白なのだが、薬を塗った所からは黒い毛が生えてきたのだ。 実験は成功だった。
 しかし、もともとイタチは毛深い動物なのだから、色が違うとはいえ、毛が生えるのは当然のことだとも思った。そこでもう一度、違う動物で試してみようと、私はメダカを買ってきた。

 まさか魚に毛が生えるとは思ってはいなかったが、魚は敏感な生き物なので、薬の危険性を調べられると思ったのだ。

 メダカを水槽に入れ、スポイトを使って少しずつ薬を入れてみる。水槽の大きさからしても、かなりの量の薬を入れたはずだが、メダカは元気に泳いでいた。
 「これなら大丈夫だ」
 私は一人ごちた。

 次は自分に使う番だ。
 私は、薬をすくうためにバケツを覗いた。だが、そこには 「毛生えバケツ」があった。
 「ギョッ」としてたじろいでしまったが、驚きはすぐに喜びに変わった。

 私は、空のトニック瓶に薬を移そうと、喜びに震える手でスポイトを握り締め、毛生えバケツに向かった。心無しか、きっきより毛が増えているような気がする。そういえば、スポイトにもびっしりと毛が生えている。
 「毛生えスポイトかぁ」
 溜め息にも似た言葉が漏れる。
 この分だと、トニック瓶も毛だらけになってしまうに違いないと思った。

 そこで私は、ふと、メダカに目を移したのだが、メダカが見えない。恐い物見たさというのか、「毛生えメダカ」というのを見てみたかったのだが、そこには「毛生え水槽」があるだけだった。
 もう、その頃になると、バケツも、スポイトも、水槽も、内側だけではなく外にまで毛が生え、「ふきふさ」というよりは「もさもさ、ばさばさ、どさどさ、わさわさ」といった形容詞がふさわしい程になっていた。

 水槽の中の「ごわごわ」した毛を掻き分け、毛生えメダカを捜していると、ごわ毛が急に動き出した。
 「毛生えメダカ」どころか、「毛玉メダカ」になっていたのだ。

 「伸びた毛はカットすればいい。そうだ、まめに床屋に通えばいいんだオシャレとはそういうもんだ」
 私は、再び、一人ごちた。

 私は思い切って薬を手ですくい、頭にこすり着けた。万遍なく、周到に、何回も何回も、丁寧に、抜け目なく塗り着けた。
 その後、手に毛が生えてはいけないと、洗面所で手を洗った。
 するとそこに、さっき薬を塗ったままにしておいたイタチが、いつものヒヨロヒョロ歩きでやってきた。

 私は、愕然とした。
 あんなにあった毛が、一本も無くなっているではないか。
 薬で生えた毛だけじゃなく、もともとのイタチの毛も無い。まったくの丸裸なのだ。髭の一本すら残っていない。
 濡れた手を拭うのも忘れ、丸裸のイタチを抱きかかえて居間に戻った。

 そこには、まるで、蝉の抜けがらのように横たわった「イタチの抜げがら」が、置き忘れられていた。
 「とりあえず、床屋代は安く済みそうだ」と思った。
 しかし、「イタチの抜けがら」は、勝手にどこかへ歩いて行ってしまった。

 私の頭の毛も、やがていつかは、どこかへ行ってしまうのだろうが、今のところ、一本も生えてきてはいない。


今日のニュース
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真夜中の訪問者

 それは、昨日の深夜の事だった。 

 何の前触れもなく、突然、玄関の呼び鈴が二回、六帖二間の殺風景な僕の部屋に鳴り響いた。
 
 それまでの僕といえば、十二年間勤めている会社の、突然の運営形態変更に伴うシフト制出勤に戸惑いを感じながらも、会社へ勤めてから初めての平日休暇というものを充実させられずに居た。 

 朝から何度も風呂に浸かっては日本酒を呑んでみたり、本を読んでみたり、洗濯するつもりでいたジーンズを履いてもう一度風呂に浸かって、いつか見たテレビのコマーシャルの真似をしてみたりを繰り返していた。 

 さすがに昼近くになると風呂も飽きたし、腹もすいてきたので、昼食にしようと思った。 

 いつもなら、会社の近くの日替わり定食を食わせる食堂に直行するところだが、その食堂まではバスで八分、電車で二十分、徒歩で三分。
 即ち、会社に出勤していなければ、行くのが大変な場所にあるのだ。ましてや、バスや電車の運行時間もあさの通勤ラッシュなればこその話で、すっかり人気の無い昼食時間に交通機関の連絡がスムースに行われる筈もなく、暫くの間、僕は途方に暮れた。 

 「今日がもし日曜日でもあれば、昨日の仕事帰りに買い物でもして帰ってきていたのだが・・・」 
と、ささやかな後悔が湯船に見えた。そう、この時、まだ僕は風呂に浸かったままで居たのだ。 
 とりあえずは風呂から上がり、服を着ながら近くの、と言っても、徒歩なら十二〜三分はかかる距離にあるコンビニへ向かう事に決めた。 

 コンビニまでの道程は、バス停までの出勤路とは逆の方向なので、普段は殆ど歩く事もなく、まさに目に映る全てのものが新鮮に見えた。 
 小さな公園へと連なる路地には、タクシーや、トラックや、外回りのビジネスマンが車の中で昼寝をしていたり、弁当を食べたりしているし、ペット自慢の近所のおじさんやおばさんたちが、犬や猫に振り回されたり、振り回したりしていた。
 少し離れた公園の隅のほうでは、学校をサボったのだろうか、学生のカップルが、ブランコに揺れながらもつれ合ってたりした。 
 程無くすると、見慣れたコンビニの看板が、信号機の無い幹線道路の向こう側に見えた。
 どうやらこのコンビニへは、その横に伸びた歩道橋を使うか、少し離れたところにある地下道を使うらしい。
 僕は行きを歩道橋、帰りを地下道という風に使い分けようと何の意味もなく思いつき、コンビニへと辿り着いた。
 コンビ二では、菓子パンと、飲み慣れた缶コーヒーを2本と、三種類のカップラーメンを二個づつ、更には、ハイライトを二個とエッチな写真雑誌を一冊買った。
 本当なら、弁当でも買いたかったのだが、ここで温めても部屋に着く前に冷えてしまうだろうし、部屋には当然、電子レンジなるものもなく、今日一日だけなら我慢もできると考えてのことだった。 

 コンビニの帰り道も、何がある訳でもなく、ぶらぶら、あちらこちらを眺めながら歩いていると、住宅街の近くで四〜五人の主婦らしき人達が寄り集まって、なにやら楽しげに会話していた。 
 「コレが世にいう、井戸端会議ってやつか・・・」 
などと、物珍しそうに一人ごちて居ると、どうやら向こうの話題のネタは、「平日の昼日中にブラブラしている働き盛りの三十歳前後の優男」という設定に変わったらしく、露骨に僕を眺めては、笑ったり、さげすむ顔をしたり、中には、吹き出す人まで居て、その前を通り過ぎる僕の背中に冷たいものが流れたりした。 
 やはり、平日の休みというのは、僕同様、他人にも理解しがたいものらしく、物珍しいのはむしろ僕の方なのだと改めて思い知らされた。 

 漸く部屋に辿り着いたときには、既に太陽はかなり西へと傾き、僅かに残された残り火のような陽射しには、何ら温もりも感じられずに居た。 
 「秋が終わりを告げ始めたのだなぁ〜」 
などと、風呂上りに数時間もの散歩をし、すっかり冷え切ってしまった身体を擦りながら、僕は再び、薄暗い部屋の中で一人ごちていた。 
 しかし、僕は感傷に浸っているよりも、熱い風呂に浸っていた方が心身ともに温まると思い直して、熱いお湯を入れ直していた湯船に再度飛び込み、骨の髄の周辺が小さな音を立てて喜んでいるのを感じずには入られなかった。 

 インスタントな夕食も終え、別にこれといってやる事も無いままに、垂れ流しのテレビを漠然と眺めていると、いつの間にか番組は深夜ものになっていて、どこのチャンネルもお決まりのテレビショッピングを放送していた。 
 僕はといえば、数時間前から生あくびは出るものの、本格的な睡魔はどこからも襲ってくる気配もなく、只々、テレビの中の、艶やかな筋肉を持ち合わせた、妙に流暢な日本語を喋る外国人を見るともなく眺めていた。 

 ベッドの枕もとに置かれた目覚し時計は、午前二時半を少し過ぎたあたりだった。 
 何の前触れもなく玄関の呼び鈴が、僅かの間をあけて二回鳴った。
 「こんな夜中になんじゃいなッ」 
という疑問は当然あったが、条件反射というのは恐ろしいもので、パブロフの犬よろしく僕は
 「ハァ〜イッ」 
と、深夜には到底似つかわしくない、えらく間抜けな返事をして玄関のドアを僅かにあけたのだった。 

 それまでの、家族団らんを思わせるような部屋の温もりを一掃するかのごとく、僅かなドアの隙間からは真夜中の木枯らしが吹き込み、僕のぼやけた頭脳回路を明せきにしてくれた。  
 一瞬にして頭脳明せきになった僕は、いたって冷静に周囲を見渡したが、冷え冷えとした薄暗がりのアパートの廊下には人影すら見えず
 「ひょっとしてピンポン・ダッシュかぁ?」
などと思い巡らせていると
 「♪ピンポーン。今晩は・・・突然ごめんなさい・・・」
と、どこかで聞き覚えのある、優しげで美しい若い女性の声が、殺風景な、コンクリート剥き出しの廊下に、あまりにも唐突なほどよく響いた。
 「まるで、初夏の微風に舞い広がる、純白のタンポポの綿毛のようだな」
と、あまりの寒さに、一際明せきになった僕の頭脳回路が、心休まる思いで聴いていた。

 「さぁ!貴方も今すぐチャレンジ!今なら、もう一台ついて一万円っ!」
 深夜だというのに、主不在の僕の部屋のテレビからは、筋肉質の外国人のけたたましくまくし立てる声が、彼女の澄んだ声にかぶさるようにして、廊下にこだました。
 「そんなもの、一つありゃ十分なんだから、五千円にせいっ!」
 いつも思っていた事だが、かの外国人には聞かれない?ように、頭の中で軽く突っ込みを入れながらも、僕は真夜中の訪問者の声の主を、ドアの隙間から頭だけ出して探していた。

 「♪ピンポーン。本当に突然、しかもこんな夜更けにごめんなさい。でも・・・貴方がいけないのよ。だって、今日は平日だって言うのに会社お休みしちゃうんだもの・・・」
 戸惑いながらも、僕は答えた。
 「えっ・・・あぁ。、ごめん。会社の出勤がシフト制になって・・・だから、逆に、日祭日の出勤もあるんだ」
 僕のすぐ近くに居るようなのに、声の主の姿は一向に見当たらない。
 「♪ピンポーン。なぁ〜んだ、そうだったの。うふふふっ、私ったら・・・貴方が風邪でもひいて寝込んでるんじゃないかしらって本気で心配しちゃって、自分の立場も考えずに、こんな夜更けに貴方の部屋まで押しかけてきちゃうんだから、ほんと、おばかさんよねぇ〜っ。うふふふっ」
 ほんのちょっと鼻にかかったこの声は、やっぱり、きっと、絶対に聞いたことのある声だった。しかも、ほとんど毎日のように聞いている。
 これほど長く会話を交わした事はこれまでに無かったように思うが、確実に聞き覚えがある。
 この声の主の甘えた口調から察するに、僕と、この訪問者との関係は、結構いい感じで現在を進行させているという気がするのだが、どうにも思い出せない。

 最近の僕はといえば、浮いた話どころか、気になる女性が居る訳でもなく、仕事一途といえば聞こえはいいが、何か大きな目標もなく、毎月の給料と、年に二回支給されるボーナスだけを楽しみに勤勉を装っているだけに過ぎず、その給料とボーナスだって、これといった目的も無いのに、こまめに貯金をしているだけで、誰かに聞かれたら、結婚資金かマイホーム資金だとでも言えばいいと考えていても、そんなことなど誰も聞いてくれることもなく・・・、又、そんな予定すらある筈もなく、そんな訳だから、女性が僕の部屋に、しかも深夜に尋ねてくるなどとは考えられる訳も無い。

 僅かな可能性として考えられるのは、僕が高校三年生のときに交換日記をしていた一年後輩の「下桃森梅代」という女と、何年か前に、青筋沢課長の昇進祝いにパーティーを開いた、鼻むしれ通りに面したキヤスメビルの一階のスナック「憂うつ」のチーママの「モサ子」ぐらいのもので、そのいずれもが、その当時に何回か身体を重ねただけで、それ以後は一度も逢ったこともなく、また、お互いにどこに居るのかも、何をしているのかすら分からなくなっている。

 考えてみれば、僕の周りで女の匂いをさせていたのはそれくらいのもので、あとは殆どお金を使って、ほんの一時、ほんの一瞬の夢を買うのが関の山なのだが、それとて月に二〜三回行ければいい方で、それ以上になると、せっかく貯めている貯金に手を出しかねないので程々にしている。

 結局、すべてにそんな風だから、やっぱり夜中に尋ねてくる女性なんて思いつく訳もなく・・・。
 「いやッ・・・、待てよッ。ひょっとして・・・、今まで思い出した中の誰かが、何かの拍子にポックリとどうにかなっちゃって、そんで持って、僕の事をなんとなく思い出したんで、つい、ふらふらぁ〜っと尋ねて来ちゃったのかもしれない訳で、もしそうだとすると、これは、晩秋の怪談話になるのだなぁ〜」
 さっきまで明晰だった僕の頭脳が寒さのために、安出来のPCのようにフリーズし始め、それとほぼ同時に背筋に悪寒が走り、僕の手足と、ドアから突き出して伸ばしたままの首が硬直し、小刻みに震え出した。

 「さぁ奥様、貴女もお肌に一塗りいかがでしょうか?一ヵ月後には若々しさが復活しまぁ〜す。今回お買い求めの奥様には、もれなく、十歳は若返るファンデーションと、おやすみ前に貼るだけで、翌朝にはシワが無くなるマジックテープをセットでっ!今なら、奥様方にはとてもお買い得な、超御奉仕価格の一万円!!」
 僕の部屋の奥のテレビからは、相変わらず深夜番組のテレビショッピングの声が響いていた。画面の中では、自分で宣伝しているファンデーションを塗り忘れたらしい往年の女優が、役者になりきって喋り続けている。

 「♪ピンポ〜ン。そうそう、貴方はもうお夕飯済ましちゃったわよねぇ〜。実は私っ、スキヤキの用意してきちゃったの。だって最近、ちょっとお疲れぎみかなぁ〜なんて思っちゃって、身体も温まるし、風邪にはいいかなって思ってネッ・・・うふふふっ」
 「いやッ、今日はコンビニのインスタントで済ましたんで、今ちょっとおなかがすいてきたかなっ、なんて・・・」
 それにしても話す前に、必ず機械的に「♪ピンポ〜ン」と鳴るのは一体何だろうか。この音もどこかで聞いた事がある。必ず聞いている。絶対だっ。

 「♪ピンポ〜ン。わぁ、良かった。それじゃあ、私が作るから、これからスキヤキにしちゃいましょうよっ。ほんとはねっ、二人分買ってきたの。貴方と一緒なら食べられるかなって思って・・・。私、お部屋に上がってもいいかしら・・・?」
 寒さのためか、それとも恐怖からか、僕は身体も心も、心なしか震えていた。
 「あっ、あぁ・・・」
 彼女?の言葉に促されて渋々ドアを開いてはみたが、やはりそこには人らしき影は無く、ましてや、僕が僅かに期待していた麗しい女性の姿などある筈もなかった。

 さっきまで、けたたましいお喋りを繰り返していたテレビショッピングは終わったらしく、番組は一転して、あまり感動的ではないクラシック音楽が、しかし、こちらもけたたましく部屋の奥のテレビから流れ続けていた。

 「♪ピンポ〜ン。驚かせてごめんなさい。でも、とても心配だったの。だから来ちゃったの。あのビルで働いていて優しくしてくれたのは、掃除のおばちゃんと貴方だけなんだもの・・・。だから、なんかとっても親近感が湧いちゃって・・・。貴方はいつも、最上階で降りるまでの間、私にそっと声をかけてくれて・・・。でも、私もお仕事だから、決められた言葉以外は話せないし・・・、(ドアが閉まります)とか、(何階ですか)とか、(ご利用有難う御座います)とか・・・」

 彼女?のお喋りはまだまだ続いていたが、僕は、今置かれているこの状況を把握する事ができずに、歯の根が合わなくなるほどの激しい震えを感じながらも、氷のように冷たくなった自分の両腕で自らの体を抱き締めたまま、上がりがまちに立ち尽くしているばかりだった。

 「・・・でも、貴方は、降りるときには決まって、(ありがとう)って言ってくれるし、ある時なんかは、(僕も残業で遅くなったけど、君は毎日が残業みたいなもんなんだよねっ。大変だけど、頑張ってネッ)なんて・・・、そんなこと言われるたびに胸のあたりが熱くなって、嬉しくって、恥ずかしくって、照れくさくって・・・。今まで、そんなに優しくされたことなんてなくって・・・。いつも、蹴飛ばされたり、仕事の憂さ晴らしに殴られたり、タンや唾を吐かれたりで・・・」

 そんなお喋りを続けながらも、彼女?はいつの間にか、狭い玄関から僕の部屋に上がり込み、とても手際?よく、スキヤキを作り始めていた。
 「・・・それでネッ、あそこの社長ったら、私が見ているとも知らずに、秘書課の○○さんの体を後ろから触り始めたの・・・。でもねっ、秘書課の○○さんも慣れたものよねぇ〜っ、表情一つ変えずにオフィスのあるフロアまで、社長のスケジュールを報告していたの。それでネッ・・・」

 彼女?のお喋りは尽きる事を知らなかったが、決して不愉快ではなかった。
 むしろ、延々と続く彼女?のそれは、共働きの夫婦の暖かい家庭を僕に想像させるものであり、あたかも僕の新妻がそこに居て、その後あるであろう夫婦の営みを期待しつつ夕飯の支度を楽しげにしているかのような錯覚すら覚えさせられるものだった。

 彼女?に魅入られた僕の身体は火照り、睡魔に蝕まれ始めた頭脳は軽い目まいとケイレンを繰り返していた。そして、気が付くと僕は、いつしか布団に潜り込み、いつもよりも一層激しい自分のいびきで目が覚めた。
 その後、彼女?がどうしたのかは僕には全く分からないが、必ず今日も会社には居る?んだと思う。

 僕はといえば、いつものように、都心の高層ビルの最上階にある会社へと出勤すべく身支度を整えようとしていたが、昨日の長風呂と、風呂上りの長時間の散歩と、真夜中の突然の訪問者の長話の為か、くしゃみと、鼻水と、咳と、悪寒と、頭痛と、関節痛と、腹痛と、高熱が激しく僕に襲いかかってきたので、会社に電話をしてやむなく二〜三日の休暇を貰った。

コメント1に続く・・・


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 僕の会社のビルは超高層で、エレベーターも音声感知式の最新式のものが設置されている。しかし、いくら最新式だとはいえ僕の部屋まで来て、愛の告白をし、更には、僕のためにスキヤキを作ろうとは誰が想像できようか・・・。
 一体、どういう風にしてここまで来たのかは全くもって謎だし、どうやってスキヤキを作ったのかも分からない。
 「胸のあたりが熱くなって・・・」と言うけど、彼女?のどこが胸なのかも、それ以前に、何をもって彼女なのかすらも理解できない。
 でも、あの「♪ピンポ〜ン」という音は、エレベーターの中で毎日聞いている音に他ならなかった。

 悪い夢でも見ているだけならいいが、多分、これは、絶対、現実であり、きっと、必ず、今夜も彼女は、僕の部屋にやってくるだろう。
 その証拠に、台所のコンロの上には、彼女の作りかけのスキヤキが、鍋ごと乗ったままになっている。
 彼女はどこで、スキヤキの材料を購入してくるのだろうか・・・。
 そして、その代金の支払いはどうしているのだろうか・・・。
 疑問は山ほどもあるし、それに伴う問題も、これから日を追うごとに増えてくることだろうが、どうやら僕は、エレベーターの彼女に恋をしてしまったようである。

 こうしている間も、彼女の声が聞きたくて・・・。
 夜がとても待ち遠しい。

 彼女の名前は一体なんて言うのだろうか・・・。
 「(最新型全自動昇降機・HD−31型・モデル294YG-63780)なんていうのは嫌だなっ・・・」 と、高熱にうなされながら、僕は思った。


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10年ほど前に、退屈しのぎに執筆した駄文です。

[ きこりん@北のほたるや ] 2011/02/21 2:08:09 [ 削除 ] [ 通報 ]

ドタバタ・ショートショート系のものが多いですが
他にも何作かあるので
気が向いたらまたアップしますw

[ きこりん@北のほたるや ] 2011/02/21 2:12:34 [ 削除 ] [ 通報 ]

なんだか、最高です!!

[ -- ] 2011/02/21 9:57:23 [ 削除 ] [ 通報 ]

天使のなみださん

なんだか、嬉しいです!!w

[ きこりん@北のほたるや ] 2011/02/21 10:06:30 [ 削除 ] [ 通報 ]

なんだか「うふふふっ。」です(*^-^*)

新潟[ 夢子。 ] 2011/02/21 13:06:09 [ 削除 ] [ 通報 ]

夢子。さん、むふふ^^

なんだかシリーズですねwww

私は「おひょひょ♪」です^^

[ きこりん@北のほたるや ] 2011/02/21 17:43:37 [ 削除 ] [ 通報 ]

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私の生きてきた軌跡

北海道の三笠市旧幌内炭鉱周辺にて、三笠の土を使って陶芸をしています。

北海道の自然や風景・動植物・各地域イベントなどを撮影し、写真にて紹介しています。

地方都市や、過疎地域の町興しを真剣に考え、具体的な提案をしています。

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